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すが、その当時の私達は、毎日次々に起こってくる問題に右往左往し、精神的に彼ら一人一人をゆったりと包み込む余裕がありませんでした。兎に角、その力によると人間関係を何とかしなければと思い、事ある毎に人に自分の気持ちを伝えることの大切さを話してきました。それは相手を傷つける事ではなく、解り合うために必要なことだ、ということを。そしていつの間にかそれが我家のテーマのようになり、みんなの意識の中にも少しずつ浸透し始めました。自分の気持ちが大切であるのと同じように、相手にとっても相手の気持ちが大切なのだという事を知り、取敢ず相手の言い分を聞こうという姿勢が、兄達の中にも見られるようになってきました。
にもかかわらず、三男は相変わらず自分の気持ちを伝えられずにいました。それは伝えようとしないのではなく、伝えなければと思っても伝えられないでいるように見えたのです。その頃から、彼の中にはもっと深い意味での人間不信があるのではと感じるようになりました。兄二人には、ほんの少しではあるけれど、父、母、家族の記憶がありました。しかし、生後すぐ乳児院に預けられてしまった三男には全くその記

 

 

 

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